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福岡高等裁判所 昭和30年(ラ)73号 決定

抗告人 北川春好

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は末尾添付の抗告状写記載のとおりである。

よつて案ずるに、一件記録に徴すると、本件競売の申立は、抵当権実行のため別紙物件目録記載の(一)乃至(八)の各物件についてなされ、競売開始決定の上、手続進行して原裁判所は、昭和二十九年四月十五日競買申出人奥山寅雄に対しては右物件中(四)、同樋渡敏雄に対しては同(五)、同中島政一に対しては同(六)(八)につき、夫々競落許可決定を与えたところ、右各物件の所有者たる本件抗告人より、右競落許可決定に対し、即時抗告の申立がなされ、抗告審に於ては、競落物件中前示(四)(六)(八)に対する売得金を以つて、右競売申立債権及び之に優先する債権並びに手続費用を償うに足るものとし爾余の物件即ち前示(五)についての競落は、許すべきものに非ずとして、右競落許可決定中樋渡敏雄に対する部分を取消し、同人に対する競落は許可しない旨の決定が与えられ、該決定は確定したこと。ところがその後、競落人中島政一は昭和三十年三月十六日の競落代金支払期日に、その代金支払の義務を履行しなかつたため原裁判所は之を理由として昭和三十年三月三十日前示物件目録記載の物件中(四)を除く爾余の(一)乃至(三)及び(五)乃至(八)につき再競売を命じ、手続進行して原裁判所は、昭和三十年七月二十七日前示物件中(一)(二)につき競買申出人大宅和三に競落許可決定を与え、次で同年九月二十八日、同(五)につき、競買申出人原口松子に競落許可決定を与えたこと及び爾余の不動産(三)(六)(七)(八)については競買の申出がなかつたことが明らかである。ところで、民事訴訟法第六百八十八条によれば、競落人が代金支払期日に其の支払義務を完全に履行しないときは、裁判所は職権を以て不動産の再競売を命ずべきものであるが、右再競売に付せらるべき不動産は、固より競落代金支払義務不履行に係る当該不動産(本件にあつては前示(六)(八)の不動産)に限るものではなく、その必要ありと認めらるる限り、前に競落不許可決定のなされた他の不動産(本件にあつては前示(五)の不動産)及び競買申出の為されなかつた不動産(本件にあつては前示(一)乃至(三)と(七)の不動産)についても再競売に付することが出来るものと解するのが相当である。蓋し、再競売施行のため配当期日の遅延に伴う遅延損害金の加増は避け得られないところであるから、仮りに、前の競落人が再度の競落代価の低下による不足の額及び手続の費用を負担するとしても、右競落金を以て各債権者に弁済をなすに足らざる場合の生ずることは容易に理解し得らるるところである。そればかりでなく、右の如く前の競落人に於て再競売による競落代金の不足及び手続費用を負担するのは、前の競落人の競落代金支払義務不履行に係る当該不動産につき、再競売手続に於て、競買の申出があり、之に競落許可決定が与えられて之が確定したとき始めて然るのであるから、需要の変動、其の他の事情の変更に伴い、再競売手続に於て右不動産につき競買の申出があり之に競落許可決定が与えらるるものとは必ずしも期待することが出来ない。而して、若し、右の如く、再競売に付せられた数個の不動産に付、民事訴訟法第六百七十五条所定の事由が存する場合には、更めて競落を許さざる不動産の生ずることがあり得るに止まるのである。以上の理由によつて、原裁判所が別紙物件目録記載の(六)(八)の外に同記載(一)(二)(三)(五)(七)の各不動産を再競売に付したのは相当といわねばならない。従つて該手続に於ける右不動産中(五)の競買申出人原口松子に対する競落許可決定は適法で、一件記録を精査しても他に右決定を取消すべき何等のかしをも見出すことが出来ない。

よつて、原決定は相当で、本件抗告はその理由がないから、之を棄却することとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第四百十四条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川井立夫 裁判官 高次三吉 裁判官 佐藤秀)

抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨 原決定を廃棄し更に相当なる裁判を求める。

理由 本件については昭和二十九年四月二十日即時抗告を為し福岡高等裁判所に於て審理の結果本件競売申立人に対する債務は、最初の競落人奥山寅雄及中島政一の両名の競落代価を以て充分に完済し得らるるにより樋渡敏雄が競落せる本物件について之れが競落を許可せないとの決定があつた。然るに前記競落人中島政一が其の競落代金を納付せざる為め更に再競売となつたものであるが他日同物件が競落せる時は民訴法第六百八十八条第六項に依り前の競落人が最初の競落代価との差額及び手続の費用を負担することに依つて依然として債務の完済を為し得らるるが故に本件物件の競落を許可すべきものでないと信ずる。

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